Allion Labs/ Ryan Huang
Wi-Fiワイヤレスネットワークは現在の家庭で欠かすことのできない役割を担っています。家族が普段使用するスマートフォンやタブレット、各種3C製品、スマートテレビ、家電等のIoTアプリケーションはすべて、家庭内のWi-Fiを経由してインターネットに接続し、様々なオンラインサービスやクラウドサービスを利用することができます。家庭内のIoT設備すべてをWi-Fiに接続できるようにするため、死角のないWi-Fi無線LANのニーズが生まれています。
図1:スマートホームではWi-Fiネットワーク構築がIoTアプリケーションの鍵を握る
一般的にWi-Fi信号の範囲を広げるには、出力を高める、アンテナを大きくする、ブリッジを追加設置する、もう一台のアクセスポイント(以下AP)を追加で設置する、といった方法が考えられます。アンテナを大きくする、または出力を高める方法は、法律で定められた規定をオーバーすることはできないため、単一のAPで拡大できる範囲には限りがあります。また、信号を延伸するためのブリッジは、半分の帯域幅を使用して信号処理を負担するため、伝送速度を効果的に高めることができません。最後に、もう一台のAPを追加で設置する方法は、無線信号品質の低下を招くことになります。例を挙げると、ユーザーがAP1からAP2付近へ移動したとき、AP1が発する無線信号がデバイス側のローミングをトリガーできる臨界値(通常約-70dB~-75dB)に達していないことで、デバイス側が元のAP1の接続を維持したままになり、より強い信号を発しているAP2に自動的に切り替わりません。ユーザーが手動でAPを切り替える必要が生じるため、利便性が低下してしまいます。
図2:一台のAPを設置しただけでは家庭全体の使用ニーズに対応できない
図2のような、これまで利用されてきたWi-Fi範囲拡大のソリューションと比較して、次世代のWi-Fiシステムである『メッシュWi-Fi』は、現在のネットワーク・通信市場で最も注目を集めている製品です。各APが独立したルーターとして機能しており、3~4台のAPを1セットとしてパッケージ運用されています。1台のAPが親機としての機能を担い、その他のAPは子機となることで、大きな面積をカバーできるWi-Fiネットワーク網を作ることができます。
メッシュWi-Fiは、ワイヤレスネットワークシステムとも呼ばれています。その特性は、従来の上下層のAPとだけ通信できるスター型、ツリー型ネットワーク構造と異なり、各APが相互に接続・通信可能で、かつ同時にパケット伝送時のルートを自動的に検出できる点にあります。
図3:従来のWi-Fi構成(スター型、ツリー型)とメッシュWi-Fiのトポロジ図
メッシュWi-Fiシステムは技術的にも多くの特色があり、これまでハイエンドクラス、またはエンタープライズクラスのワイヤレスルーターにしか搭載されていなかったなかった機能も、一般向けメッシュWi-Fi製品に搭載されています。例えばIEEE 802.11k-Neighbor Report、IEEE 802.11v-Wireless network management、IEEE 802.11r-Fast Transition Roaming、IEEE 802.11x-Network Access Controlなどです。このほか、メッシュWi-Fiのメッシュネットワークの特性により自己修復(Self-Healing)等の機能が加わっています。そのほか、メッシュWi-Fiでよく見られる機能は以下のとおりです。
・シームレスローミング-Seamless Roaming
シームレスローミングとは、一台のAPから別のAPに切り替えるために要する時間をミリ秒レベルに制御することを指します。これは、ワイヤレスデバイスがAPを切り替える前にIEEE 802.11k-Neighbor Reportを通じて事前にその近辺のAPの情報を収集してリスト化し、信号が弱くなったときにそのリストから自動的に接続を切り替えるAPを見つけ出します。同時に、IEEE 802.11v-Wireless network managementを通じて、ネットワークデプロイメントと管理メカニズムを簡素化します。デバイスが良好なワイヤレスネットワーク環境を保てるAPに切り替えることができます。また、ワイヤレスデバイスはIEEE 802.11r-Fast Transition Roamingを通じて、事前に接続認証を行うことでAP切り替え時間を短縮します。最後に、ワイヤレスデバイスでローミングのトリガー臨界値まで信号が減衰した場合、前述の3つのメカニズムを通じ、自動的に別のAPにローミングへと切り替えられ、かつ切り替え時間がミリ秒レベルに制御されます。
では、シームレスローミングにはどんなメリットがあるのでしょうか。例えば、LINE、WeChat、Skype等のリアルタイム通信アプリを使用して音声/ビデオ通話をしているとき、シームレスローミングを利用することで、ユーザーが異なるAP間を移動しても接続が途切れにくく、良好な通話品質が得られます。
・バンドステアリング-Band Steering
バンドステアリングは一部中高クラスの一般向けAPにも搭載されることのある機能です。この機能は、APがデバイスから送信される接続リクエストのパケットを受け取ったとき、APが一連の検証を行ってから、クライアントをよりよいワイヤレス環境に移動させます。一般的な運用では、デバイスがAPへの接続をリクエストしたとき、デバイスが5GHz帯をサポートしているか否か、信号強度等をAPが判断します。すべての要求を満たしている場合、APが5GHz帯でデバイスの接続に応答し、ネットワーク速度がより速く、無線干渉がより少ない5GHz帯にデバイスは接続します。
図4:バンドステアリング-Band Steeringの運用
・自己修復-Self-Healing
従来のスター型、ツリー型ネットワークトポロジーでは、あるノードが故障して断線すると、その下層の後方の接続デバイスもそれに伴って断線し、手動で利用可能なノードに再接続する必要があります。メッシュWi-Fiの自己修復は、ネットワーク環境が正常に機能しなくなる状況の発生を予防することができます。不思議な技術のように聴こえますが、実際はメッシュWi-Fiのメッシュネットワーク中にある各APが相互接続・通信できる特性を利用したものです。ネットワーク中のあるノードが故障した場合、メッシュWi-Fiネットワークは故障したノードを迂回することで、正常なノードを相互接続して運用し、かつ同時にパケット伝送時に最善のルートを自動的に検出し、ネットワーク内の接続通信すべてを正常に動作するようにします。
図5:メッシュWi-Fiの各APが相互接続・通信できる特性を持っているため、自己修復できる
・クライアントステアリング-Client Steering
クライアントステアリングは、同様にIEEE 802.11v-Wireless network management技術を利用することで、ワイヤレスデバイスがAPの負荷状況と現在の帯域情報を取得し、他のAPに切り替える必要があるか否かを判断します。これによりAPへの接続を効果的に効果的に分散でき、すべてのデバイスが特定のAPに集中しなくなります。伝送速度が遅くなったり、その他のAPが使用されなくなるような状況の発生を防ぐことができます。
図6:クライアントを最適なAPにステアリングできる
本文では、メッシュWi-Fiの四大特性であるシームレスローミング(Seamless Roaming)、バンドステアリング(Band Steering)、自己修復(Self-Healing)、クライアントステアリング(Client Steering)を紹介しました。それでは、市場で販売されているメッシュWi-Fiシステムは、本当にこれらの四大特性を満たしているのでしょうか。
次回は様々なメーカーのメッシュAPについて、規格の実運用、接続範囲、性能を比較します。ご期待ください!